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常時6本自動ローテーション
演目 Vol.10 🍃新鋭

強情灸

Goujou Kyuu / The Stubborn Moxa

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日本語 / ルビ:初級

【まくら】 え〜、人間にんげんてぇものはみょうなもので、いたいのあついのは大嫌だいきらいなくせに、人前ひとまえになるとやたらつよがりたがるという、こまったくせがございます。「なんの、こんなもの平気へいき平左へいざ」なんていながら、内心ないしん涙目なみだめだったりする。ことに江戸えどには、この我慢がまんがまた格別かくべつでしてね。けずぎらいにもほどがある、というくらいの意地いじりが、あちらこちらにおりました。今日きょうはそんな、意地いじ意地いじとがぶつかりった、ちょいと迷惑めいわくおとこたちのおはなしでございます。

【我慢自慢】 さて、ある町内ちょうない煙草屋たばこやまえで、くまさんとっつぁんがかおわせましてね。
熊さん:「よぉっつぁん、このさむいのに薄着うすぎだな。」
辰つぁん:「なんの、おれさむさなんぞまれてこのかたかんじたことがねぇ性分しょうぶんでな。」
熊さん:「へっ、威張いばるない。おれなんざ先月せんげつ歯医者はいしゃ虫歯むしばいたが、いたいのなんの、これっぽっちもかんじやしなかったぜ。」
辰つぁん:ぁ〜〜一本いっぽんぐれえでおおきなかおするない。おれなんぞ去年きょねん屋根やねからっこってあしくじいたが、一言ひとことごとわなかったぞ。」
と、こんな調子ちょうしで、どっちが我慢強がまんづよいか、きそいがはじまりました。

【灸の一言】 そこへくまさんがおもしたようにいましてね。
熊さん:「そういやぁ、おれのおふくろが毎月まいつききゅうえろってうるさくてな。だがおれきゅうなんざともおもわねぇ。えてるあいだ煙管きせるで一ぷくやりながら、鼻歌はなうたまじりよ。」
辰つぁん:きゅうぐれえでおおきくたな。おれなんざきゅうきでな、あつくなればなるほど気持きもちがいい。あんなもの、されたほどにもかんじやしねぇ。」
熊さん:「ほう、うじゃねぇか。それならいまここでためしてみるか?」
辰つぁん:上等じょうとうだ、やろうじゃねぇか。」
と、言葉ことば言葉ことば、とんでもない勝負しょうぶはじまることになりました。

【山盛りの勝負】 というわけで、どこからかもぐさせまして、まずは豆粒まめつぶほどのきゅうたがいのうでえてけました。ジリジリとしても、二人ふたりともすずしいかお近所きんじょものたちも面白おもしろがってあつまってきましてね、見物けんぶつ相手あいてに、だんだんときゅうやまおおきくなっていきます。
辰つぁん:「なんだ、そんなちいさいのじゃ物足ものたりねぇ。おれうでにゃ、こんぐらいっけてもらおうか。」
こぶしほどのもぐさやまうでげます。
熊さん:「へっ、けちゃいられねぇ。おれにもおなじだけっけてくれ。」
と、たがいにけじときゅうやまはどんどんおおきくなり、しまいにはうでうえにちょっとした小山こやまのようなもぐさふたつ、ならぶことになりました。

【やせ我慢】 けられたもぐさやまは、ジリジリ、ジリジリとおとててつづけます。二人ふたりひたいにはたまのようなあせかび、かおになっておりますが、それでも二人ふたり平気へいきかおくずしません。
熊さん:「あ〜、ちょうど湯加減ゆかげんだ……はる陽気ようきってのは、こうあたたかいもんだねぇ。」
辰つぁん:いしばりながら)「お、おうよ……ぽかぽかして、気持きもちのいいことだ……」
こえふるえ、ひたい血管けっかんすほどこらえておりますが、どちらも「まいった」の一言ひとことだけは、意地いじでもくちにしようとしません。見物けんぶつしゅうも、はらはらしながらておりました。

【オチ】 とうとうもぐさやまき、はだねつさったその瞬間しゅんかんっつぁんがとうとうこらえきれず、
辰つぁん:「た、たまらねぇ〜!あつい!あついよう!」
がってうでまわし、井戸端いどばたまでころがるようにけていってしまいました。見物けんぶつしゅうは「くまさんのちだ」とはやて、くまさんは煙管きせるをくわえたまま、したりがおで「なぁに、これしき」なんてましんでおりましたが……っつぁんの姿すがた路地ろじかどえたとたん、くまさんもガクッとひざからくずちましてね。
熊さん:「い、いてぇ〜!いたいにまってらぁ!なにが湯加減ゆかげんだ、バカ野郎やろうぁ!」
と、だれもいなくなったところで、さっきまでのましがおはどこへやら、大声おおごえわめいたという。意地いじ意地いじのぶつかりい、ったのはほんの紙一重かみひとえ結局けっきょくのところ、どっちも強情ごうじょう我慢がまんだったという、お粗末そまつなオチでございました。